Act.28
うたがきこえる―――。
ここはドコだ?
床は一面水浸しで、水がくるぶしのあたりまできている。
何事かと思い、下をみれば、ソコにウツるのは見慣れない自分の姿――。
「なんだ、コレ。」
自分のいまの姿を一見して、それを忘れたかのようにまた走り回る。
ここがドコか判らないまま、コドモのように辺りを走りまわる。
“コドモのように”という言い方は正確ではない。
なにしろ先刻見た自分の姿はコドモそのものなのだから。
フアンから口をでてきた言葉は―――。
「お兄ちゃん…、ドコ?」
兄とは、ダレのことを指すのか。
自分には兄弟なんていないはずだ、まして血縁者なんて――。
――イルはずはない―――。
セナやシャナとだって、本当に血が繋がってはいない。
当然、苗字だって違う。
「……ん?セナとシャナって誰だ?」
“セナ”と“シャナ”――。
今の今まで知っていたはずの人物。
声も…顔も思い出せない……。
また、暗闇を纏う水面の上をバシャバシャと音を立てながら走る。
どれくらい走ったかわからない。
すると目の前に一つの大きなヒカリがあるのがわかった。
走って近寄るに従って、その大きなヒカリは鮮明になっていく。
辿り着いた場所には、大きなスクリーンがあるだけ。
辺りを振り返ると、後ろには今まで無かった映画館のような客席。
適当に座ってみれば、目の前のスクリーンにはカウントダウンが映し出される。
…3――。
…2――。
…1――。
…0――――。
スクリーンに現れたのは、ショートカットの男性……。
――10代前半というところだろうか。
表情はよく見えない……。
スクリーンに向かって、何か喋っている。
「ほら、お前の好きなお兄ちゃんだよ?」
“お兄ちゃん”?
目の前にいる人物がそうだというのだろうか……。
自分には見覚えのない人物――。
そう全くといっていいほどに。
ぼーっと観ていると、スクリーンに映し出される人物の人数が増えた。
ショートカットの男性はほかの人物と数分話していたが、話し終わるとコッチ向いた。
「じゃぁ、そろそろ家に帰ろうか、ケー。」
なぜか名前を呼ばれたその声は懐かしい。
―――自分はこの人物を知っているのだろうか?
そう思いながらも夢に堕ちるような錯覚に陥る。
周りの黒だった背景は音を立てるように薄れていき、全体の明度を上げていく。
空から落とされるような感覚………。
いま観たモノの記憶さえ薄れていく。
「…助けて…?お兄ちゃん……。…助けてぇ…?」
『『いま、どこにイルの?』』
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