Act.25












ハンター試験もこの試合と次の試合を残すのみとなった。

そしてその対戦者は……

ギタラクル対キルアである。



「どうしたもんかねぇ〜、この試合。」



ケイは人知れず呟いた。
ギタラクルとはご存知(ケイが愛して止まない)イルミのことである。
キルアとは血縁同士。

しかも、キルアは家出した身である。(イルミから聞いた)

この試合どうしたものか。


ケイが思考を巡らせていると、立会い人の試合開始の声が響いた。


2人が対峙するとギタラクルが不意に声を発した。



「久しぶりだね、キル。」



親しい者―家族からしか呼ばれない愛称で呼ばれ、相手が誰だか少し考えている。


すると、ギタラクルは手を顔にもっていき顔中に刺さっている彼の針を一本づつ抜き取り始めた。
全ての針が取れると、ギタラクルの顔が奇妙な音を立てて、その形を変えていった。

形が元に戻るとそこには見間違えようのない、自分の兄の顔………。


キルアはココで初めて動揺の色を見せていた。




久しぶりの兄との対面にキルアの無意識のうちにか一歩後退していた。
そんなキルアに本来の顔に戻ったギタラクル――イルミが弟に声を掛けた。



「や。」



周囲だは、キルアが自分の眼前にいる男に向かって兄と漏らしたので、驚きを隠せないでいる。
まぁ、そうで無い者もいるのだが……。
ケイもそのうちに一人だ。



「母さんとミルキを刺したんだって?」
「まぁね。」



キルアの返答にイルミが言葉を続ける。



「母さん泣いてたよ。」
「そりゃそうだろうな。息子にひでー目にあわされちゃ。」



ここでのレオリオの発言は当たり前なのでが、キルアはゾルディック家の一員である。
なので……。



「感激してた、“あのコが立派に成長してくれててうれしい”ってさ。」



当然、世間とかけ離れている。
レオリオがひっくり返るのは仕方の無いことだろう。

そしてイルミは更に言葉を続けた。



「“でもやっぱり、まだ外に出すのは心配だから”って、それとなく様子を見てくるように頼まれんたんだけど……。
奇遇だね。まさかキルふがハンターになりたいと思っていたなんてね。実はオレも次の仕事の関係上、資格をとりたくてさ。」
「別になりたかった訳じゃないよ。ただ、なんとなく受けてみただけさ。」



冷や汗をかきながらも、生意気に返事を返すキルア。



「……そうか、安心したよ。心おきなく忠告できる。」



すこし間をおいてイルミはいった。



「お前にハンターは向かないよ。お前の天職は殺し屋なんだから。」



兄に言われた衝撃的な言葉にキルアの目には兄以外が全て歪んで見え始めた。
それと同時に会場はひんやりと冷たい空気で満たされていく。



「お前は熱を持たない闇人形だ。自身は何も欲しがらず何も望まない。影を糧に動くお前が、唯一喜びを抱くのは人の死に触れたき。
お前は親父とオレにそうつくられた。」
「――…………。」
「そんなお前が、何をもとめてハンターになると?」
「確かに…ハンターになりたいと思っている訳じゃない。だけど、オレにだって欲しいものくらいある。」



理解できない汗を流しながら答えたキルアにイルミは間髪いれずに返した。



「ないね。」
「ある!今望んでいることだってある!」
「ふーん。言ってごらん、何が望みか。」



感情のあまり篭もっていない声に、口ごもるキルア。
そして、降ってきた声を思い切り否定した。



「どうした?本当は望みなんてないんだろ?」
「違う!…ゴンと…友達になりたい。もう、人殺しなんてうんざりだ。…普通にゴンと友達になって、普通に遊びたい。」



途切れながらも発したキルアの望みはゴンと友達になること――。
それをイルミはさっきより感情のない声でこういった。



「無理だね。お前に友達なんて出来っこないよ。お前は人というものを、殺せるか殺せないかでしか判断出来ない。
そう教え込まれたからね。今のお前にはゴンがまぶしすぎて、測り切れないでいるだけだ。友達になりたいわけじゃない。」
「…違う……。」
「彼の側にいれば、いつかお前は彼を殺したくなるよ。殺せるか殺せないか試してみたくなる。何故なら、お前は根っからの人殺しだから。」



兄から発せられる、自分の本質を見抜かれているかのような言葉。
自然にキルアの掌が硬く握られ、理解できない汗が滲みでてくる。
更に続こうとする兄の言葉に、己を見失いかける。
背中にはツメタイ感覚のお陰で固まっていくばかりだ。

冷たい空気から会場が重苦しい雰囲気に変わる頃、ヒソカより長身の青年が動き出す。
つかさず、グラサンの立会い人が彼―レオリオの行く手を塞ぐ。



(あ、アイツ。ヒソカに担がれてた奴じゃなーか。)



「さき程も申し上げましたが。」
「ああ、わかってるよ。手は出さねェ。」



「キルア!!お前の兄貴か何か知らねーが、言わせてもらうぜ!そいつはバカ野朗でクソ野朗だ!聞く耳持つな!」



(ああ゛?イルミがなんだってぇ???)



レオリオの発言にキレかけるケイ。
思わず、本人に視線を向けた。



「いつも調子でさっさとぶっとばして合格しちまえ!!ゴンと友達になりたいだと?寝ぼけんな!!
とっくにお前らダチ同士だろーがよ!!少なくともゴンはそう思っているはずだぜ!!!」
「――!!」
「え?そうなの?」
「たりめーだ。バーカ。」



(んだとぉ〜、若老け!!)



今度はレオリオのイルミ発言に頭に血が上ったらしい。
微量だが、わずかに殺気立っている。


レオリオと向かい合うイルミ。
キルアはイルミの恐怖に怯えて、いっそうカラダが強張った。


イルミは困ったようすで考えるポーズをとりながら、次の瞬間とんでもない事をいいだした。



「よし、ゴンを殺そう。」



唖然とする、周囲にイルミは兄の口調でキルアに語りかけた。



「殺し屋に友達なんていらない。邪魔なだけだから。」



イルミの言葉にケイが正気に戻った。



(え?オレって存在はどう思われてるの?友達?それとも……下僕ですかぁ!?どっちなのイルミはっきりしてぇ〜〜〜!!!!!)



ケイはその回答に苦しみ、涙を流しながら頭を抱えて泣き叫んでいた。


その間にもイルミが、ゴンを殺そうと針を手に歩き始めた。
傍らには恐怖で石になったキルア。



「彼はどこにいるの?」
「ちょ、待ってください。まだ試験は…。」



自分を遮った立会い人に向かって、手に持っていた針を投げつけた。
針は額に命中し、イルミがもう一度質問を繰り返した。



「どこ?」



針を打ち込まれたことによって、立会い人の顔が時をおって歪んでいく。
苦しみながらも、彼はイルミの質問に答えた。
答えなければ、間違いなく殺さるからだ。



「とナリの控え室ニ――。」
「どうも。」




イルミは軽く礼をいうと、ここ場所から出るべく、出口に向かっていった。













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*原作の台詞激しく引用しているので今回は申告します。